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梶井基次郎『檸檬』

現代文と古文を指導している高校3年生の学校では今週から定期テストが始まります。テスト範囲は梶井基次郎の『檸檬』や世阿弥『風姿花伝』、韓愈『雑説』など。

久しぶりに梶井基次郎の『檸檬』を読み、あまりの素晴らしさにいくつかの他の短編を読み返しました。繊細であり、流麗。美しい文章で20篇程度の小品を残した夭逝の天才。


『檸檬』は「えたいの知れない不吉な塊が私の心を始終圧えつけていた。」という印象的な書き出しで始まります。

「何故だかその頃私は見すぼらしくて美しいものに強くひきつけられたのを覚えている。」

これは「撞着(どうちゃく)語法」という表現技法です。ブルーハーツの「ドブネズミみたいに美しくなりたい」とか、ことわざの「急がば回れ」とか、通常は互いに矛盾していると考えられる表現を組み合わせるのもの。作品を象徴する一文です。

「始終私の心を圧えつけていた不吉な塊がそれ(檸檬)を握った瞬間からいくらか弛んで来たとみえて、私は街の上で非常に幸福であった。」

「丸善の棚へ黄金色に輝く恐ろしい爆弾を仕掛けて来た奇怪な悪漢が私で、もう十分後にはあの丸善が美術の棚を中心として大爆発をするのだったらどんなにおもしろいだろう。」

高校生からすると「何かよくわからない話だな…」と感じるかもしれませんが、梶井は想像を自在に飛翔させ、テクストを通じて破壊衝動を昇華し、珠玉の短編に結晶させました。

そんなことよりも『文豪ストレイドッグス』というアニメの存在を教えてもらい、梶井基次郎や谷崎潤一郎のキャラに衝撃を受けた今日この頃です。


梶井 檸檬

私は左のちくま文庫を所有しています。この一冊で梶井の全作品が網羅できます。表紙の綺麗さは右の角川文庫の方が良いかも…やっぱり岩波でしょ、という硬派な人もいるかもしれません。

岩波

2023年10月16日