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何のために勉強するの?

太宰治『正義と微笑』から

勉強というものは、いいものだ。代数や幾何の勉強が、学校を卒業してしまえば、もう何の役にも立たないものだと思っている人もあるようだが、大間違いだ。植物でも、動物でも、物理でも化学でも、時間のゆるす限り勉強して置かなければならん。日常の生活に直接役に立たないような勉強こそ、将来、君たちの人格を完成させるのだ。何も自分の知識を誇る必要はない。勉強して、それから、けろりと忘れてもいいんだ。覚えるということが大事なのではなくて、大事なのは、カルチベートされるということなんだ。カルチュアというのは、公式や単語をたくさん暗記している事でなくて、心を広く持つという事なんだ。つまり、愛するという事を知る事だ。学生時代に不勉強だった人は、社会に出てからも、かならずむごいエゴイストだ。学問なんて、覚えると同時に忘れてしまってもいいものなんだ。けれども、全部忘れてしまっても、その勉強の訓練の底に一つかみの砂金が残っているものだ。これだ。これが貴いのだ。勉強しなければいかん。そうして、その学問を、生活に無理に直接に役立てようとあせってはいかん。ゆったりと、真にカルチベートされた人間になれ! これだけだ、俺の言いたいのは。


cultivate [kʌ́ltəvèit] [動]他動詞

1.〈土地を〉耕す,開拓[開墾]する

2.〈作物・植物などを〉育てる,栽培する,〈水産物を〉養殖する,《生物》〈微生物などを〉培養する

3.〈人・心を〉養う,鍛える,育てる,〈才・技術などを〉培う,〈態度などを〉作り上げる;〈産業・科学などを〉育成する,興す

4.〈人間関係を〉はぐくむ,築く;〈人と〉きずなを結ぶ

5.〈新しい市場・顧客を〉開拓する,掘り起こす


「何のために勉強するの?」

誰でも一度は考えたことがあるのではないでしょうか?

誰かに聞いても、

「勉強が子供の仕事だから」

「いい大学に入っていい会社に入るため」

だとか、あまり納得のいく答えをもらえなかったのではないですか?

勉強は、私たちが夢や目標に向かって努力する様々なことを、そのまま置き換えた行為です。大事な場面で集中し、情報を手に入れて、プランを練り、考え抜き、本質を見出し、難しい局面を乗り越え、目的を成功させる。それで得られる達成感や幸福感は勉強でも仕事でも同じです。学校を出て、大人になっても勉強はしなければなりません。

勉強はテストの点数や暗記のみが重要なのではありません。勉強という行為そのものに、意義があるのです。太宰の言う「砂金」です。大切なのは「カルチベート」された人間になること。

勉強が「できる子」と「できない子」がいる訳ではありません。勉強する理由が「ある子」と「ない子」がいるだけなのです。「勉強するメリット」と「勉強しないデメリット」をrealityを持って想像できるか…(もちろんこれは大人や指導する側の責任でもあります)

コロナ禍によって世の中は大きな転換点を迎えています。終身雇用は崩壊し、非正規雇用が増え、デフレも、もちろんコロナも収束する気配はありません。

「この社会をサバイバルする」という意味でも、勉強はこれからの子供たちにとても必要なことです。

2021年02月18日

寝るなメロス

『走れメロス』、牧野原中も市川五中も鎌ヶ谷三中も松戸五中も河原塚中も、星和塾に通う全ての二年生の試験範囲です。それだけ重要な作品です。

あらすじは皆さんご存じだと思います。友情と信実の男メロス…

ところがこのメロス、二年も会ってない友人を何の根回しもなく人質に差し出し、自分はすぐ寝ます。人の命がかかってるという緊張感があまりない。

王との約束で妹の結婚式のために三日間の猶予をもらったメロス。十里離れた妹の住む村に着いたのはあくる日の午前。さっそく結婚式の準備にかかり、疲れて深い眠りに落ちます。で、気付いたら夜…新郎の家に行って「結婚式を明日にしろ」とむちゃなことを言い始めます。「いや準備ができてないし勘弁して欲しい」とこんな議論が夜明けまで続き1日が終了。

結局、新郎側が折れて2日目の昼に結婚式を無理やり決行。雨が降り出し、大雨になります。参列者はきっと大迷惑だろうな…そのメロス、さぞかし友人のことを心配してるだろうなと思いきや「王との約束をさえ忘れて」祝宴を楽しみます。式には出席できたのだから、祝宴は…と思うのですが最後まで楽しみます。

タイムリミットは3日目の日没。ついに出発を決意します。ところがメロス、ちょっと寝てから出発しよう、と言い始めます。仕事ができない新卒社員のようにタイムマネジメントができていません。プランBみたいなものもない。結局この判断ミスが大きな災いにつながっていきます。

「寝過したか、いや、まだまだ大丈夫、これからすぐに出発すれば、約束の刻限までには十分間に合う。(中略)メロスは、悠々と身仕度をはじめた。」

と余裕がありすぎるメロス。少しでも早く到着して友人を助けよう、とは考えません。

「まっすぐに王城に行き着けば、それでよいのだ。そんなに急ぐ必要も無い。ゆっくり歩こう、と持ちまえののんきさを取り返し、好きな小歌をいい声で歌い出した。ぶらぶら歩いて二里行き三里行き…」

友人が人質である、という自覚は全くありません。

濁流を乗り越え、山賊を退治し、また路傍の草原にごろりと寝転がります。絶対に寝るなよ、と言いたくなります。ここで寝ちゃだめでしょ。そしたら水を飲んで復活。

2回も寝坊し、ギリギリ間に合うメロス…

「ばんざい、王様ばんざい。」って、冒頭で王様は「妹婿、お世継ぎ、妹、妹の子、皇后、賢臣のアキレス」を殺してることが明らかになっています。朝日新聞の世論調査でもやれば93%くらいが「辞任すべき」となるはず…ばんざい、とはならんだろう、とツッコミたくなります。

そんな太宰が勉強についてとても良いことを書いています。

それはまた次回にでも…

太宰

太宰の有名な写真。銀座のバー「ルパン」。今も現存し、私も学生時代から何度か飲みにいきました。この場所、店の奥のカウンターですが、同じ場所に座ってジントニックやマティーニを飲んでいると、太宰が隣に座ってきそうな気がします。

2021年02月11日